「龍神の雨」道尾秀介
実の親を事故や病気で両親を失った、継父と暮らす兄妹と、継母と暮らす兄弟の2組の兄弟を描くサスペンス。
不遇な境遇の中で、ちょっとした勘違いや思い込みで、人を傷つけてしまったり、罪をおかしてしまったり・・・ 。自分も思い込まされてしまい、まんまと騙されました。
物語のあいだ降り続く雨が陰鬱で、緊張感のある世界観を演出します。終盤に向けて緊張感は上がっていき、最後にはハラハラドキドキでした。 家族愛や兄弟愛も描かれ、登場人物の成長も感じることができる良い作品でした。
「月と蟹」道尾秀介
鎌倉を舞台にした、小学生が主人公の物語。
転校してきたクラスに馴染めない、2人の小学生。二人は次第に、秘密の隠れ家で一緒に過ごすように。
隠れ家でヤドカリを神様に見立てたお祈りの儀式を行ううちに、最初はちょっとしたお願いごとだったお祈りも、いつしか・・・
無力感、不安、嫉妬、孤独感を抱えた少年の危うさが緻密に描かれています。が、その分、読んでいる時に重たくのしかかるものを感じます。
主人公を通して人間の普遍的な危うさなどを描いている人間ドラマで、読書にエンタメ要素を求めている人(同じ作者の カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫) のようなものを期待する人)には合わないかもしれません。
「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎
伊坂幸太郎さんの「 アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫) 」
恋愛や友達を描いた連作短編集。
殺し屋も、泥棒も出てくることなく、大きな事件もなく、とても穏やかに進んでいきますが、それでも楽しく読め進められるのは伊坂幸太郎さんのすごいところ。
読み進めるに連れて、登場人物や個々のエピソードが繋がっていく、連作短編集ならではの楽しさを存分に味わえます。
終盤、時代が前後するので、話についていくのが大変でしたが、回想シーン中のエピソードも爽やかで読後感も良いです。
「カラフル」森絵都
生前の罪により輪廻のサイクルからはずされた主人公。天使業界の抽選に当たり、 輪廻のサイクルに戻るチャンスを得たが、その条件は、自殺を図った中学三年生の少年、小林真の体にホームステイし、 自分の罪を思い出すこと。生前に犯した罪とは・・・
読みやすい文体で、サクサク読み進められます。かなりライトな感じですが、読み進めていくうちに、大事なことが書いてあるなと感じました。
多くの人が体験するであろう、自分を取り巻く環境に対して不安や孤独、悩みを抱く青少年の時期に読むと良いかも(私も、高校〜大学くらいまで、自分の殻に閉じこもっていたような)。
"せいぜい数十年の人生を気楽にホームステイ" と考えれば、案外、世の中は "カラフル" なのかもと思わせてくれる作品です。
「手紙屋」喜多川泰
喜多川泰さんの 手紙屋〜僕の就職活動を変えた十通の手紙〜 。
就職活動で悩む主人公と、手紙を通じて人の人生に役立つ情報を提供する「手紙屋」の間で交わされる手紙のやり取りで進行する物語。
自分が就職活動をしていた時、或いは、今も持っているであろう「働くこと」に対する、自分の価値観や心構えを見直す良いきっかけになったと思います。コロナ禍で、安心・安泰というのが難しい今こそ読むべき本なのかもしれません。
- 必要条件だけ見たそうとするのではなく、様々な経験をしたり、必要条件を満たす以上の勉強をする
- 目の前にやってくるものを取捨選択しない。その時の自分で判断すると、自分の持っている可能性を開花させられない
- 失敗をした人は「才能」を理由に挙げる。成功した人は「情熱」を理由に挙げる
といったことは、就職に限らず、意識していきたいと思います。たまにこの本を開いて、自問自答するようなことも良いかもしれません。
最後に、意外な展開と心温まる結末が用意されているのは、さすがです。
- 作者: 喜多川泰
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2012/11/02
- メディア: Kindle版
「風神の手」道尾秀介
遺影専門の写真館がある街を舞台にした、時代/世代の異なる4つのお話で構成された作品。
個々のお話で起こるたくさんの出来事や "嘘" が互いに影響し合っていて、今の自分たちの存在もまた、過去の出来事の結果であるというのは、私の好きな映画「バタフライエフェクト」を彷彿させます。
読み進めて行くうちに、「あっ、あの時のあの人か!?」という感覚も面白いです(逆に、「・・・誰だっけ?」ということも。一気読みするのが良さそうですね)。
「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざや、映画「 バタフライ・エフェクト プレミアム・エディション [DVD] 」と同様に、「風神の手」というタイトルも、"風"? を媒介としてものごとが影響し合っているということかなと思いました。
複数のお話がつながりあっていることで描かれる全体像こそがこの作品の醍醐味ですが、第一章だけでも十分に面白いというのがすごい。
とても面白かったです。かなりお勧め。
「ジェリーフィッシュは凍らない」市川 憂人
市川 憂人さんの? ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)
第26回鮎川哲也賞受賞作。
80年代を舞台にした、少しSF的な要素があるクローズド・サークルものです。
新しい技術を搭載した小型飛行船"ジェリーフィッシュ"。技術の開発者6名を乗せた試験飛行中に一人が死体となって発見され、やがて機体は暴走して雪山に閉じ込められ、次々と犠牲者が・・・
宣伝文句に、 そして誰もいなくなった (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1-1)) や 「 十角館の殺人〈新装改訂版〉 「館」シリーズ (講談社文庫) が引き合いに出されていますが、フーダニットというよりはハウダニットの傾向が強い作品です。
物語は、"機内"、"刑事"、"犯人の独白" を繰り返して展開します。刑事同士の軽快なやり取りなどはあるものの、Howがかなり複雑で、数十ページに渡って徐々に真相が明らかになるという形式なので、読みやすさや、「そうだったの!?」という瞬発力のあるどんでん返しを期待する人には向かないかなという印象です。
個人的には、人に勧めることは無いかなという感じです。
- 作者: 市川 憂人
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2019/06/28
- メディア: 文庫
「シャドウ」道尾秀介
「十角館の殺人」綾辻行人
ツイッターでものすごく評判が良かったので、ずっと気になっていた作品。
あとがきの中で、作者は「地べたを這いずり回るようなリアリズムは嫌い」 と言っていますが、現実感度外視で世界観を作るのではなく、 大邸宅が舞台となる必然性や動機にもきちんとリアリティがあり、 最後まで楽しめました。
「輝く夜」百田尚樹
百田尚樹さんの 輝く夜 (講談社文庫)
クリスマスを舞台にした、幸の薄い女性が主人公の短編集。
主人公に素敵な奇跡(ファンタジー要素強め)が起きる、心温まるお話の数々。文体も、ボリューム的にも読みやすく、ハッピーエンドのお話で読後感はとても良いです。
個人的には、ハッピーエンド(と思いたい)ながら、ちょっと切ない、「ケーキ」がお気に入りです。
同じ短編集でも、ひねりと毒のきいた 幸福な生活 (祥伝社文庫)?(←こちらもおすすめ)とは大違い。
百田さんの引き出しの多さには本当に感心させられます。
- 作者: 百田 尚樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/11/12
- メディア: 文庫
「光媒の花」道尾秀介
道尾秀介さんの 光媒の花 (集英社文庫)。
山本周五郎賞 受賞作品。
部分的にリンクする6つの章で構成された短編集。"カラスの親指"で見せたエンタメ的要素は一切無く、最初から暗さや悲しさが重くのしかかります。
すべての章を読むことで、登場人物の別の一面(光と影)が見えたり、全てが繋がり合って世界が動いているということがメッセージとして伝わってきます。
後半は温かいお話になり、救われる部分もありますが、如何せん、前半が重た過ぎて評価は分かれるかなという印象です。
- 作者: 道尾 秀介
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/10/19
- メディア: 文庫
「カラスの親指」道尾秀介
「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎
「月の砂漠をさばさばと」北村薫
「ロジカルライティング」照屋華子
プレゼンなどの提案資料や報告書に限らず、日常のメールなど、日本語できちんと書くシーンは山ほどあります。
しかし、ライティング技術を学ぶ機会は無かったり、自分の文章が相手にどう思われているかといったことを改めて考えることは無いのではないでしょうか?
社会人になったばかりの方から、今まで我流でやってきたけど・・・という方まで、全ての方が対象になる汎用的なスキルだと思います。
この本で一度きちんと学べば、一生モノのスキルになると思います。自分への投資と考えて、手元に置いてみてはいかがでしょうか?
ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING)
- 作者: 照屋 華子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/03/24
- メディア: 単行本