「龍神の雨」道尾秀介

道尾秀介さんの「 龍神の雨 」。
大藪春彦賞受賞作。
実の親を事故や病気で両親を失った、継父と暮らす兄妹と、継母と暮らす兄弟の2組の兄弟を描くサスペンス。
不遇な境遇の中で、ちょっとした勘違いや思い込みで、人を傷つけてしまったり、罪をおかしてしまったり・・・ 。自分も思い込まされてしまい、まんまと騙されました。
物語のあいだ降り続く雨が陰鬱で、緊張感のある世界観を演出します。終盤に向けて緊張感は上がっていき、最後にはハラハラドキドキでした。 家族愛や兄弟愛も描かれ、登場人物の成長も感じることができる良い作品でした。
龍神の雨

龍神の雨

  • 作者: 道尾秀介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: Kindle
 

「月と蟹」道尾秀介

道尾秀介さんの「 月と蟹 」。
第144回直木賞受賞。
鎌倉を舞台にした、小学生が主人公の物語。
転校してきたクラスに馴染めない、2人の小学生。二人は次第に、秘密の隠れ家で一緒に過ごすように。
隠れ家でヤドカリを神様に見立てたお祈りの儀式を行ううちに、最初はちょっとしたお願いごとだったお祈りも、いつしか・・・
無力感、不安、嫉妬、孤独感を抱えた少年の危うさが緻密に描かれています。が、その分、読んでいる時に重たくのしかかるものを感じます。
主人公を通して人間の普遍的な危うさなどを描いている人間ドラマで、読書にエンタメ要素を求めている人(同じ作者の カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫) のようなものを期待する人)には合わないかもしれません。
 
月と蟹

月と蟹

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/07/12
  • メディア: Kindle
 

「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎

恋愛や友達を描いた連作短編集。
殺し屋も、泥棒も出てくることなく、大きな事件もなく、とても穏やかに進んでいきますが、それでも楽しく読め進められるのは伊坂幸太郎さんのすごいところ。
読み進めるに連れて、登場人物や個々のエピソードが繋がっていく、連作短編集ならではの楽しさを存分に味わえます。
終盤、時代が前後するので、話についていくのが大変でしたが、回想シーン中のエピソードも爽やかで読後感も良いです。
アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)

アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)

 

「カラフル」森絵都

生前の罪により輪廻のサイクルからはずされた主人公。天使業界の抽選に当たり、 輪廻のサイクルに戻るチャンスを得たが、その条件は、自殺を図った中学三年生の少年、小林真の体にホームステイし、 自分の罪を思い出すこと。生前に犯した罪とは・・・
 
読みやすい文体で、サクサク読み進められます。かなりライトな感じですが、読み進めていくうちに、大事なことが書いてあるなと感じました。
 
多くの人が体験するであろう、自分を取り巻く環境に対して不安や孤独、悩みを抱く青少年の時期に読むと良いかも(私も、高校〜大学くらいまで、自分の殻に閉じこもっていたような)。
"せいぜい数十年の人生を気楽にホームステイ" と考えれば、案外、世の中は "カラフル" なのかもと思わせてくれる作品です。
 
カラフル (文春文庫)

カラフル (文春文庫)

  • 作者: 森 絵都
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: Kindle
 
 

「手紙屋」喜多川泰

 

就職活動で悩む主人公と、手紙を通じて人の人生に役立つ情報を提供する「手紙屋」の間で交わされる手紙のやり取りで進行する物語。
 

自分が就職活動をしていた時、或いは、今も持っているであろう「働くこと」に対する、自分の価値観や心構えを見直す良いきっかけになったと思います。コロナ禍で、安心・安泰というのが難しい今こそ読むべき本なのかもしれません。
 
  • 必要条件だけ見たそうとするのではなく、様々な経験をしたり、必要条件を満たす以上の勉強をする
  • 目の前にやってくるものを取捨選択しない。その時の自分で判断すると、自分の持っている可能性を開花させられない
  • 失敗をした人は「才能」を理由に挙げる。成功した人は「情熱」を理由に挙げる
 
といったことは、就職に限らず、意識していきたいと思います。たまにこの本を開いて、自問自答するようなことも良いかもしれません。
 

最後に、意外な展開と心温まる結末が用意されているのは、さすがです。

 
手紙屋〜僕の就職活動を変えた十通の手紙〜

手紙屋〜僕の就職活動を変えた十通の手紙〜

 

「風神の手」道尾秀介

道尾秀介さんの「風神の手」。
遺影専門の写真館がある街を舞台にした、時代/世代の異なる4つのお話で構成された作品。

 
個々のお話で起こるたくさんの出来事や "嘘" が互いに影響し合っていて、今の自分たちの存在もまた、過去の出来事の結果であるというのは、私の好きな映画「バタフライエフェクト」を彷彿させます。
 
読み進めて行くうちに、「あっ、あの時のあの人か!?」という感覚も面白いです(逆に、「・・・誰だっけ?」ということも。一気読みするのが良さそうですね)。
 

風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざや、映画「 バタフライ・エフェクト プレミアム・エディション [DVD] 」と同様に、「風神の手」というタイトルも、"風"? を媒介としてものごとが影響し合っているということかなと思いました。
 

複数のお話がつながりあっていることで描かれる全体像こそがこの作品の醍醐味ですが、第一章だけでも十分に面白いというのがすごい。

とても面白かったです。かなりお勧め。

 
風神の手

風神の手

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2018/01/04
  • メディア: Kindle
 
 

「ジェリーフィッシュは凍らない」市川 憂人

第26回鮎川哲也賞受賞作。
 

80年代を舞台にした、少しSF的な要素があるクローズド・サークルものです。
 

新しい技術を搭載した小型飛行船"ジェリーフィッシュ"。技術の開発者6名を乗せた試験飛行中に一人が死体となって発見され、やがて機体は暴走して雪山に閉じ込められ、次々と犠牲者が・・・
 

宣伝文句に、 そして誰もいなくなった (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1-1)) や 「 十角館の殺人〈新装改訂版〉 「館」シリーズ (講談社文庫) が引き合いに出されていますが、フーダニットというよりはハウダニットの傾向が強い作品です。
 


物語は、"機内"、"刑事"、"犯人の独白" を繰り返して展開します。刑事同士の軽快なやり取りなどはあるものの、Howがかなり複雑で、数十ページに渡って徐々に真相が明らかになるという形式なので、読みやすさや、「そうだったの!?」という瞬発力のあるどんでん返しを期待する人には向かないかなという印象です。
 
Amazonのレビューにもあるように、刑事たちのキャラ設定が濃いように感じますが(アメリカのドラマのようなノリ)、シリーズものにしたかたったという思惑のせいなのでしょうか・・・
 

個人的には、人に勧めることは無いかなという感じです。

 
ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)

ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)

  • 作者: 市川 憂人
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/06/28
  • メディア: 文庫
 

「シャドウ」道尾秀介

本格ミステリ受賞作。
 

学生時代から付き合いのある両親と、子供が小学校の同級生でもある二組の家族。そこで起きる自殺や、父親たちの異変の真相とは・・・
 

小手先のトリックの技巧ではなく、人間の精神の複雑さや壊れやすさ、精神医学を絡めたお話で奥行きがあり、また、それに基づいた壮大な仕掛けで予想外の結末を迎えます。

随所に散りばめられた伏線も、最後にきちんと回収されていて、道尾秀介さんの凄さを実感できる作品でした。おすすめできる一冊です。
 

シャドウ (創元推理文庫)

シャドウ (創元推理文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/01/01
  • メディア: Kindle
 

「十角館の殺人」綾辻行人

 

ツイッターでものすごく評判が良かったので、ずっと気になっていた作品。
 
孤島の大邸宅を舞台にした連続殺人・・・という、昔ながらの推理小説という感じでしたが(建物の見取り図や孤島の地図も登場!)、最近のミステリーの傾向と違って逆に新鮮でした。
 

あとがきの中で、作者は「地べたを這いずり回るようなリアリズムは嫌い」と言っていますが、現実感度外視で世界観を作るのではなく、大邸宅が舞台となる必然性や動機にもきちんとリアリティがあり、最後まで楽しめました。

 
十角館の殺人〈新装改訂版〉 「館」シリーズ (講談社文庫)

十角館の殺人〈新装改訂版〉 「館」シリーズ (講談社文庫)

 

「輝く夜」百田尚樹

クリスマスを舞台にした、幸の薄い女性が主人公の短編集。
 

主人公に素敵な奇跡(ファンタジー要素強め)が起きる、心温まるお話の数々。文体も、ボリューム的にも読みやすく、ハッピーエンドのお話で読後感はとても良いです。
 

個人的には、ハッピーエンド(と思いたい)ながら、ちょっと切ない、「ケーキ」がお気に入りです。

同じ短編集でも、ひねりと毒のきいた 幸福な生活 (祥伝社文庫)?(←こちらもおすすめ)とは大違い。

百田さんの引き出しの多さには本当に感心させられます。
 

輝く夜 (講談社文庫)

輝く夜 (講談社文庫)

  • 作者: 百田 尚樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/11/12
  • メディア: 文庫
 

「光媒の花」道尾秀介

山本周五郎賞 受賞作品。

部分的にリンクする6つの章で構成された短編集。"カラスの親指"で見せたエンタメ的要素は一切無く、最初から暗さや悲しさが重くのしかかります。
 
すべての章を読むことで、登場人物の別の一面(光と影)が見えたり、全てが繋がり合って世界が動いているということがメッセージとして伝わってきます。
 

後半は温かいお話になり、救われる部分もありますが、如何せん、前半が重た過ぎて評価は分かれるかなという印象です。
 

光媒の花 (集英社文庫)

光媒の花 (集英社文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/10/19
  • メディア: 文庫
 

「カラスの親指」道尾秀介

借金を肩代わりしたことをきっかけに人生が狂ってしまい、もう、損な生き方はしないと、詐欺師として生きる道を選んだ武沢。同じように、借金取りに追われ、家族を失った相棒のテツ。
自分が解散に追い込んだ借金取りの組織からの報復に怯えながら、素性を隠して暮らしていたが、ある日、たまたま出会った3人と共同生活をすることに。
そして、共通の敵である組織をペテンにかける計画を立てるが・・・
ラストのどんでん返しにはすっかり騙されました。伏線はたくさんあったのに、全然気がつきませんでした。
優しさ溢れる壮大なペテンで、爽やかな読後感です
 

「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎

大学の新入生 椎名は、引っ越してきたアパートの隣に住む "河崎" と出会い、本屋から広辞苑を強奪する手伝いをすることに・・・

 
語り手の異なる、現在と2年前の2つの話が同時進行し、意外な形でつながります。ごく普通の大学生 "椎名" の感覚は、自分に近いものがあり、感情移入して読むことができました。
 

"川崎"、"ドルジ"、"麗子さん"などの登場人物たちのキャラクターや人生観も印象的でした。
 
吉川英治文学新人賞受賞作というだけあって面白かったです。お勧めです。
 

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/01/01
  • メディア: Kindle
 

「月の砂漠をさばさばと」北村薫

 

母親と娘の日常のほのぼのとしたユーモアあふれるやり取りと、おーなり由子さんおやさしい挿し絵が相まって、温かい気持ちになります。
 
子ども向けかもしれませんが、林家たい平さんや又吉さんもお気に入りらしく、ほっこりしたい大人にも良いかも。
 
 
月の砂漠をさばさばと (新潮文庫)

月の砂漠をさばさばと (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/06/28
  • メディア: 文庫
 

「ロジカルライティング」照屋華子

 

プレゼンなどの提案資料や報告書に限らず、日常のメールなど、日本語できちんと書くシーンは山ほどあります。
 

しかし、ライティング技術を学ぶ機会は無かったり、自分の文章が相手にどう思われているかといったことを改めて考えることは無いのではないでしょうか?

社会人になったばかりの方から、今まで我流でやってきたけど・・・という方まで、全ての方が対象になる汎用的なスキルだと思います。
 

この本で一度きちんと学べば、一生モノのスキルになると思います。自分への投資と考えて、手元に置いてみてはいかがでしょうか?

 
ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING)

ロジカル・ライティング (BEST SOLUTION―LOGICAL COMMUNICATION SKILL TRAINING)

  • 作者: 照屋 華子
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2006/03/24
  • メディア: 単行本