「アフターデジタル」/「アフターデジタル2」藤井保文
オフラインの世界で、インターネットにつながったオンラインの付加価値をつけていくというのが従来の考え方。しかし、今や、オンラインとオフラインの境界が無くなり、その主従関係も変わっているという世界になっているということを海外の事例(特に、中国。進んでいる!)を紹介しながら解説しています。目から鱗が落ちる一冊。
メーカーに勤めていると、プロダクトをいかにして売るか?、改善するか?という視点になりがちでしたが、そういったモノ売りのプロダクト志向になってしまいます。しかし、そういった考えから脱却し、いかにユーザーとの接点を増やし、データを取得し、ユーザーに人に教えたくなるような体験(=価値)を提供し続けられるかという考えが重要だと気づかされます。
単に、「データを取ればいい」訳では無く(解釈できない生データは買ったり、使ったりされない!)、どんな人にどんなベネフィットを提供するかを先に描かなければならないというのは注意しなければならないなと感じました。
会社でも、結構、「データを集める」、「エコシステムを作る」みたいな話になりがちですが、かなり漠然とそういった話になっていました。実際問題として、データは整理することが必要で、エコシステムを作っても、コストが高く、面倒なデータの整理を誰が主導するのか?といった問題があり、実のところ、誰もやる人がいなくて絵に描いた餅になりそうです。
事業開発、製品開発、マーケティング・・・など、様々な人に、従来の考え方を見直すきっかけとして、是非、読んで頂きたい本です。
「砂漠」伊坂幸太郎
社会に出る前のモラトリアム期間を過ごす大学生の男女5人の日常を中心に描いた青春小説。ものすごく大きな事件が起きる訳では無いのですが、どこにでもいそうな登場人物達の日常だからこそ、過去の学生時代を思い起こしつつ、世界観に入り込めました。
"西嶋" のぽっちゃり&眼鏡という容姿と、熱量、口調は、サンボマスターの山口さんを彷彿させます(私だけ?)。実際に近くにいたら疎ましく思ってしまいそうな "西嶋" ですが、その思いの強さも、臆さない姿勢も、読み進めていくと魅力的に感じました。
サン=テグジュペリの言葉を引用した、学長の「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」という言葉には、ちょっと感動しました。自分は、入学当初の "北村" 的なタイプでしたが、"北村" のように仲間と過ごすことなく、卒業してしまったことが悔やまれます(留年して、5年もいたのに!!)。留年した為、同期と一緒に卒業式に出ることすら無く・・・
大学時代という、砂漠に出る前の特殊なモラトリアムの時間。別の過ごし方もあったかもという思いもありますが、砂漠に出た現在でも遅くは無いので、人間関係での贅沢ができるように日々を暮らしていきたいと思います!
ところで・・・古賀氏は何をしていた人なんでしょうか!?
「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」今村 翔吾
今村 翔吾さんの「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)」。
江戸時代の火消しを題材にした時代小説。主人公の松永源吾は「火喰鳥」の異名を持ち、かつて、江戸随一の火消しの評価を得ていた。
しかし、過去の火事が原因で火消しを離れ、浪人暮らしとなってしまう。そんな彼が、藩から火消しを再建するように依頼され、少ない資金で仲間を集めることに・・・。
男気あふれる主人公の源吾をはじめ、力士、軽業師、学者・・・と、その男気に魅せられて集まった個性的な仲間たちもまた魅力的に描かれています(しっかりものの奥様も、とても素敵です)。
主人公の人柄や熱意や、役人たちや町の人など多くの人を巻き込んで世の中を変えていく姿に感動しました。シリーズもの(12冊?)らしいので、少しずつ続きを読んでいきたいと思います。
「満願」米澤 穂信
米澤 穂信さんの「満願」。
2014年の「ミステリが読みたい!」、「週刊文春ミステリーベスト10」、「このミステリーがすごい!」で1位を獲得し、史上初の3冠に輝いた作品。
「儚い羊たちの祝宴」では独特の世界観が描かれていましたが、本作は、交番勤務の警察官や、バングラデシュに眠る天然ガスの採掘を画策する商社マン、ドライブインなど、もっと現実的な世界が描かれた6つのお話で構成される短編集です。
「夜警」では、あるベテランの警察官が、配属された新人の巡査が警察官としての資質を欠いているという印象を抱く。その不安は的中し、刃物を持って暴れる男性が暴れている現場で相手を射殺してしまい、自身も切りつけられて殉職してしまう。違和感を感じていたベテラン警察官は、この殉職の背後にある動機に気がつく・・・
・・・といった具合に、それぞれのお話で、「なぜやったのか?」という "動機" の方に注目した作品群というのが特徴になっています。「柘榴」は、ちょっと「儚い羊たちの祝宴」にも近い印象を受けました。
一見、共通点が無さそうな事故を調査をしていく中で、お婆さんとの会話を進めていくに連れて、徐々にそれらがつながり始め、恐怖が迫ってくるような「関守」が一番好みでした。
「影法師」百田尚樹
学問も、剣も、誰よりも達者で、人格者だった幼馴染の彦四郎。
そんな完璧だったはずの彼が、なぜ、白昼堂々、女性に狼藉を働き、行方をくらまし、不遇の死を遂げたのか。
下級武士から筆頭家老にまで上り詰めた勘一は、20年ぶりに江戸から国元に帰り、ことの真相を知る・・・
二人が少年時代だった頃まで遡り、彼らが様々なことを経験し、成長していく姿が描かれていきます。
学があっても、剣の腕があっても、身分や長男か否かによって様々なところで制約があったり、理不尽なことでも受容しなければならないという武士の世界の不条理も描かれており、その時代に武士として生きることの大変さ、苦しみ、悲しみが伝わってきます。
そんな世界においては、まっすぐな勘一も、彦四郎も、大切な人を守るためには清廉潔白でばかりもいられず、「生きる」ということはこんなにも大変なことだったのかと思い知らされました。
大義や友との約束の為に自らの人生を投げうってまで献身的に生きた彼らの姿に心を打たれます。
「グラスホッパー」伊坂幸太郎
妻を殺され、復讐を目論む元教師の「鈴木」、相手を自殺に追い込む、自殺屋の「鯨」、ナイフ使いの若者「蝉」。
「鈴木」の復讐の相手である寺原の息子は、「鈴木」の目の前で通りすがりの車に轢かれて死んでしまうが、それは単なる事故ではなく、事故に見せかけて殺す押し屋「槿(あさがお)」が絡んでいるらしい。「鈴木」は押し屋と思われる男を尾行するが・・・
「鈴木」、「鯨」、「蝉」の三人の視点で描かれる、特技の異なる殺し屋達の絡みも読んでいて面白いですが、終盤の展開にハラハラドキドキさせられます。
殺し屋シリーズの一作目で、この作品の登場人物は、続く「マリアビートル」、「AX」にも登場するので、シリーズの順番通りに読むのがお勧めです!(私は、「AX」⇒「マリアビートル」⇒「グラスホッパー」と逆順に読んでしまいました・・・が、それでも全部楽しめました!!)
「儚い羊たちの祝宴」米澤 穂信
米澤 穂信さんの「儚い羊たちの祝宴(新潮文庫)」。
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」を共通点とした5つの事件が描かれた短編集。
Twitterで評判が良かったのですごく期待して読んだのですが、一話目を読み終えた時には、正直なところ、「う~ん」という感じでした。しかし、読み進めて行くと、手記のような文体で淡々と語られるダークな世界観に引き込まれていきました。
「バベルの会」がキーワードとして登場するものの、あまり繋がり感を感じることなく進むのですが、最終話できちんとつながります。ちょっと怖いですが、印象に残る作品でした。
また、私は一度読んだだけでは理解しきれず、ネットで解説を見てようやく理解できたところもあったので、読解力が要求される作品かもしれません(私の読解力の問題化も!?)。
「阿弥陀堂だより」 南木佳士
自信を喪失した作家と、医師として活躍していたが精神的に病んでしまった妻。
故郷の長野に移り住み、村での生活や阿弥陀堂のおうめ婆さんらと交流する中で、心身ともに少しずつ変化していきます。
村の寂れた、もの悲しい雰囲気や、四季がうまく描かれていて、読んでいると村の様子が目に浮かぶようです。
また、作者の南木佳士さん自身が医師であり、また、パニック障害や鬱を経験されているということもあり、主人公の妻の心境の描写にリアリティがあります。阿弥陀堂のおうめ婆さんのことばが纏められた、作中の「阿弥陀堂だより」にも、そういった経験から生まれた作者の死生観が反映されているようで、素朴で何気ないような言葉でも心に響きます。
「良い本を読んだな~」と思える作品で(もしかしたら、少し大人向けかも)、また数年後、或いは、日常生活で疲れてしまった時に、静かな環境で再読したいです。
「運転者」喜多川泰
「空飛ぶ馬」北村薫
「のっけから失礼します」三浦しをん
三浦しをんさんの「のっけから失礼します」。
ご自身の年齢や容姿をいじりつつも、乙女心満載の爆笑エッセイ。
感動作「風が強く吹いている」や直木賞受賞作「まほろ駅前多田便利軒」の作者とは思えないくらい、ユーモア(おふざけ?)あふれる内容です。
4ページに凝縮されたそれぞれのエピソードの面白さはもちろん、「NDD(=ニュードSドクター)」といった略語や、「もんだ眠(=いい気なもんだな、睡眠中の俺)」といった独創的な造語のセンスも秀逸。三浦しをんさんの小説の世界に浸るのも良いですが、エッセイの中で「三浦しをん節」に浸るのも良いです。
「ラッシュライフ」伊坂幸太郎
画家、泥棒、教祖に惹かれる青年、医師、失業者を主役とした5つのストーリーがあちこちで繋がりながら、並行して進んでいきます。
ユーモアもあり、読み進めるに連れて「あの時のあれ/あの人が!?」と繋がっていく様は、読んでいてとても楽しいです。
しかし、「最後にどんでん返しが~」というタイプのパンチの効いた感じの作品では無いので、そういったことを期待して読むと、ちょっと不完全燃焼感はあるかもしれません。
ちなみに、場面転換や登場人物が多いので、一気に読まないと「この人誰だっけ?」となってしまうかも!?(私はなりました・・・)
おまけ:本作に登場する"泥棒(=黒澤)" は、「ホワイトラビット」にも登場します。登場人物が作品をまたがって登場するのも、伊坂幸太郎さんの作品の魅力のひとつですね。