「運転者」喜多川泰

喜多川泰さんの「運転者」。
 
何で自分ばっかりこんな目に合うんだ・・・と不運を呪い、イライラする主人公の前に表れた不思議なタクシー。
 
料金は不要で、運が良くなる機会を与えてくれる場所に運んでくれる謎の運転手との会話や、行く先々での体験を通じて次第に主人公の価値観が変わっていきます。
 
作品中の「運を貯める/使う」という概念が、斬新ながら、妙に腹落ちします。人生は「生まれてから死ぬまで」と考えていましたが、親やその祖先、或いは、子供や子孫まで、そして関わり合う周囲の人と繋がっていることを痛感させられました。先祖や親のいろんな思いがあってこその現在の世界・自分であり、自分も子供たちや未来の為に何かしなければと感じました(主人公の祖父や父の思いに感動させられました)。
 
「報われない努力なんて無い」と言われても、「う~ん」と思ってしまうタイプでしたが、読みやすいファンタジーな文章のせいか、説教臭さを感じることなく、読んでいくうちに、「そうかも!」と思うようになりました。長い目で見れば、きっとそういうものなんだと思います。
 
小説形式の自己啓発書なのかもしれませんが、プロローグをはじめ、伏線が気持ちよく回収されていくので、純粋に小説としても面白く、ちょっと泣けて、読後感も良いです。