「切り裂きジャック・百年の孤独 」島田荘司

島田荘司さんの「切り裂きジャック・百年の孤独

1888年に実際にロンドンで起きた切り裂きジャック事件。その100年後にベルリンでそっくりな事件が起きる・・・

切り裂きジャック事件をモチーフにした事件を描きつつ、現在も未解決のロンドンの切り裂きジャック事件の真相も推理するという、興味深い作品。昔のロンドンの街の雰囲気の描写も、作品に独特な雰囲気を与えていて良いです。100年前の話については、被害者の名前をはじめ、実際の事件の情報を使用しているという点も珍しいです。

作品中で展開される動機や犯人像は、未だに明らかになっていない動機や犯人像についての仮説のひとつとして面白いと思いました。

冒頭でグロい表現がある(しかも、話とはほとんど関係ない!?)ので、そういったものが苦手な人はご注意ください。

「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん

三浦しをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」 第135回直木賞受賞作。

駅前で便利屋を営む多田と、高校時代の同級生である行天が依頼者からの仕事をこなしていく中で、様々な人生の機微が描かれます。大きな事件もなく、個々の依頼が実は繋がっていて最後に意外な結末がっ!!・・・ということもないのですが、三浦しをん先生の文章に惹きつけられます。
「風が強く吹いている」を読んだ時にも感じましたが、人を描くのがすごく上手な作家さんだと思います。

多田の過去や、仰天の小指のエピソードなどを用いて、「人生はいつでもやり直せる」かもしれないが、完全に元には戻らないことも確実にあるという現実的なことも示しているように感じました。

変わり者の仰天との出会いや、仕事を通じて、「知ろうとせず、求めようとせず、だれともまじわらぬことを安寧と見間違えたまま臆病に息をするだけの日々を送る」状態から抜け出せたのは良かった。自分を守ろうとしている思考・姿勢が、本当に自分の幸福につながっているとは限らないなと思いました。

「すべてがFになる」森 博嗣

森 博嗣さんの「すべてがFになる

孤島の研究所で、少女時代から隔離された生活を送っていた天才・真賀田博士。ある日、密室である彼女の部屋から両手両足が切断された死体が発見される。一体、誰が、どうやって・・・

前代未聞の死体の登場の仕方に度肝を抜かれました。そして、真相が明らかになった時、衝撃を受けました。

理系的な表現が多い分、「でも、当時の技術だと・・・」と、一瞬、無粋な突っ込みを考えてしまったりもしましたが、とにかく面白かった!

頭の良い犀川先生と、それをはるかに凌駕する真賀田博士。それぞれの思考や、やり取りも興味深かったです。おすすめ。

「彼らは世界にはなればなれに立っている」太田愛

 
架空の町<塔の地>を舞台にした物語。

中央府による文化や情報の制限に抗うことなく、保身のために中央府への忠誠を近い、受容し、周囲に合わせながら暮らす人達を待つ結末とは・・・
 
淡々と話が進み、終盤は作者のメッセージ的な要素がかなり濃くなります。「犯罪者」や「幻夏」とは作風も世界観も異なるので、そういった過去の作品と同じようなものを期待する人には期待外れかもしれません(私も、ちょっと期待と違いました)。
 

安全に尊厳を持って生きられる時代の背景にある、長い困難な時代の存在があることや、政府から発信されることを無条件に受容することの危険性など、「天上の葦」に通じるところもあり、作品を通じて伝えたいメッセージなのかもしれません。
 

・・・が、やっぱり、個人的には、修司・相馬・鑓水が活躍する作品が好き!
 

彼らは世界にはなればなれに立っている (角川書店単行本)

彼らは世界にはなればなれに立っている (角川書店単行本)

  • 作者: 太田 愛
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/10/30
  • メディア: Kindle
 
犯罪者 上 (角川文庫)

犯罪者 上 (角川文庫)

  • 作者: 太田 愛
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: 文庫
 
幻夏 (角川文庫)

幻夏 (角川文庫)

  • 作者: 太田 愛
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: Kindle
 

「バイバイ、ブラックバード」伊坂幸太郎

「あのバス」に乗せられるまでの2週間、見張り役の怪人:繭美と共に交際相手(5人)に別れを告げに行くお話。
 
破天荒な繭美と鈍感な星野のユーモアあふれるやり取りや随所に描かれる繭美の怪人っぷり、個性的な交際相手(キャッツアイ的な・・・)に終始ニヤニヤさせられました。
 
読者に余韻を与えるこのラストも良いですが、最後の繭美の提案に乗っかった展開も読んでみたかった!
 

ちなみに、この作品、未完のまま絶筆になった太宰治さんの「 グッド・バイ 」の設定(何股もかけている男性が、その関係を清算する為に女性の協力を得て一人ひとり訪ねていく)を踏襲していて、「繭美」の性格も「キヌ子」の影響を受けているのだとか。「グッド・バイ」も気になります。
 

バイバイ、ブラックバード

バイバイ、ブラックバード

グッド・バイ

グッド・バイ

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/09/28
  • メディア: Kindle
 

「ラットマン」道尾秀介

家族内の複雑な感情や、勘違いから生まれた思考や苦悩がうまく描かれ、終盤に次々と伏線が回収されていくのは流石。
前半は大きな盛り上がりは無いものの、登場人物達の人間関係や心情がきちんと描かれ、密かに伏線が張り巡らされていきます。そして、後半に読む手が加速しました。刑事さんのセリフにちゃんと(?)エクスキューズがあるように、動機はちょっと弱いかな?という気もします・・・が、面白かったです。
ストーリーとは全く関係ありませんが、作品中で、Mr.Bigの "Wild World" がCat Stevensのカバーということを知って、ちょっとびっくり。・・・でも、私はMr.Bigの方が好きです!
 
ラットマン (光文社文庫)

ラットマン (光文社文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/07/20
  • メディア: Kindle
 
BIG,BIGGER,BIGGEST! The Best Of MR.BIG

BIG,BIGGER,BIGGEST! The Best Of MR.BIG

 

「占星術殺人事件」島田荘司

密室で殺された画家と、体の一部を切り取られて惨殺された6人の娘たち。一体誰が?どうやって?? 事件から40年以上経過して明らかになった新事実から、真相が明らかに・・・
同じ御手洗さんシリーズの「 改訂完全版 異邦の騎士 (講談社文庫) 」では、初っ端からつかみがあり、読み手を引き付けるようなストーリーが展開されますが、本作では、読者を突き放すような手記(登場人物・カタカナ・記号がいっぱい)で始まり、最後まで「誰が、どうやって?」の謎解きがメインの作品となっています。
巷の評判が高いので謎解きが好きな人はすごく好きなのかもしれません。が、そうでない人にはあまり向かないかも。私は冒頭の手記で匙を投げそうになりました(こんなことは初めて・・・)。
「絶対犯人を当ててやる!」、「トリックを見破るのは得意!」という、腕に覚えのある方は是非挑戦してみて下さい。
 
占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)

 

「異邦の騎士」島田荘司

主人公が公園のベンチで目覚めると記憶を失っていた・・・という設定で始まり、そこからラストまで、まさに山あり谷ありの展開
突っ込みどころは多々ありますが、それを差し引いてもすごい作品でした。あまり事前情報は無い方が楽しめると思いますので、Amazonのレビューなどは見ない方が良いかもしれません。
ちなみに、この作品はシリーズになっていて、他の作品から読んだ方が良いという噂もありますが、私はこれから読んでも十分楽しめました!(お勧めの順番で読むと何が違うんでしょうか?)
改訂完全版 異邦の騎士 (講談社文庫)

改訂完全版 異邦の騎士 (講談社文庫)

 

「幸福な生活」百田尚樹

一話あたり平均17ページで完結する、全19話のショートショート

すべてのお話で、ページをめくった最後の一行にかなりブラックだったり、ぞっとするような結末が待っています(何気なくパラパラめくるとオチが見えてしま恐れがありますのでご注意ください)

文章が上手く、テンポよく進むので、気楽に楽しめる作品です。
個人的には、「母の記憶」が面白かったです。
幸福な生活 (祥伝社文庫)

幸福な生活 (祥伝社文庫)

  • 作者: 百田 尚樹
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2013/12/12
  • メディア: 文庫
 

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」東野圭吾

 

かつて悩み相談を請け負っていた雑貨店と、悩みを抱える人々を連作短編形式で描いた、時空を超えたファンタジー
 

悪事を働いた3人が逃げ込んだ廃業していると思しき雑貨店。そこに真夜中にも関わらず、シャッターの郵便受けから悩み相談の手紙が投函され、3人は相談に回答することに。
 

相談者の悩みに不器用ながら、誠実に回答していくうちに、人の役に立つことで何かが変わっていく彼ら。また、様々なことがらや登場人物達のつながりも明らかになっていきます。
 

第四章は、子を持つ身としては、なんとも切なかったですが、温かい気持ちになれる作品です。
 
ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/04/24
  • メディア: Kindle
 

「データ分析のための数理モデル入門」

データ分析やモデルについて俯瞰して書かれており、概要を広く理解できます(個々のお話はそんなに深くはないです)。
また、モデル作成時の注意点やノウハウも載っているので、データ分析や機械学習に携わる方にお勧めです。
文中で "If all you have is a hammer, everything looks like a nail" という諺が紹介されていました。
ハンマーしか持っていない人にとっては全ての問題が釘を打つ問題に見えてしまうというバイアスのことを表しているそうです。
そういう意味でも、広く知っておくことは大事なのかもしれません。
本文のデザインも、今まで読んだ技術解説書には無いくらい読みやすかったです。
データ分析のための数理モデル入門 本質をとらえた分析のために

データ分析のための数理モデル入門 本質をとらえた分析のために

  • 作者: 貴裕, 江崎
  • 出版社/メーカー: ソシム
  • 発売日: 2020/05/13
  • メディア: 単行本
 

「カエルの小指」道尾秀介

道尾秀介さんの「 カエルの小指 」。
 

前作「 カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫) 」から10年以上経った世界。詐欺師から完全に足を洗った武沢は実演販売士として真っ当に生きていた。
 

そんなある日、謎の女子中学生が現れ、とある依頼を引き受けたことで、再び、あのメンバーが集結します。面白くない訳がないですね!今回もまんまと騙されました。
 

悲しい過去を持つ登場人物達の家族のような絆もこのシリーズの大きな魅力です。人間関係がわかるように、未読の方は、前作の「 カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫) 」から読むことをお勧めします!

 
カエルの小指

カエルの小指

  • 出版社/メーカー: Audible Studios
  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: Audible版
 

「風が強く吹いている」三浦しをん

 

箱根駅伝には全く興味がなかったのですが、三浦しをんさん原作の映画を観たことをきっかけに読みました。読んで良かった!
 

陸上への興味も、経験も無い素人同然の大学生達が、ある一人の情熱によって箱根駅伝を目指すことに。10人のメンバー達のキャラクターや関係性がセリフを通じてリアルに表現されていて、箱根駅伝を目指して強くなっていく彼らをリアルに感じながら読み進めました。
 

各自が限界に挑みながら、襷をつないでいくという駅伝ならではの世界で、一生懸命に目標に向かっていく姿に感動させられました。
風が強く吹いている

風が強く吹いている

  • 作者: 三浦しをん
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: Kindle
 

「透明人間の納屋」島田荘司

 

孤独な少年ヨウイチが唯一心を許し、尊敬する人物である、隣人の真鍋さん。彼は、透明人間が存在すること、そして、納屋で透明人間になる薬を作っていることをヨウイチに告白する。
 

そんなある日、密室状態のホテルから一人の女性が蒸発するかのようにいなくなり、海岸で死体となって発見される。
真相が明らかにならないまま、26年の月日が経ち、一通の手紙を受け取ったヨウイチは驚愕の事実を知る・・・

 
子どもも読者として想定している為か、かなり展開が早く、SF的な要素も含んだ軽いお話かな?と思いきや、終盤の手紙をきっかけに、急に現実的で大きな話へと展開します。
 

自分を取り巻く環境でどうにもならないことがあったり、自分の未熟さを悟ったり、自分の選択を後悔したり・・・少年の視線で語られるストーリーを通じて、ちょっと切なくなる作品でした。

 
巷で評判の高い、?占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)?も読んでみたくなりました。
 

透明人間の納屋 (講談社文庫)

透明人間の納屋 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/08/10
  • メディア: 文庫
 

「異人たちの館」折原一

2018年本屋大賞発掘部門「超発掘本!」
 

樹海で見つかった白骨死体。近くに落ちていた免許証から、失踪した小松原淳と推定された。それでも、淳の母は息子の帰還を信じて、売れない作家志望の島崎に息子の伝記の執筆を依頼する。
 

幼少期までさかのぼって調査を進める中で、淳の周りで数々の不穏な事件が起きていることが明らかに。更に、過去の出来事だけでなく、現在もちらつく謎の男の存在・・・
 

インタビュー、新聞記事、小説、モノローグ・・・と、異なる文体で構成される600ページもの長編ながら、結して冗長な感じはなく、謎が謎を呼ぶ展開で一気に読んでしまいました。

 
異人たちの館 (文春文庫)

異人たちの館 (文春文庫)

  • 作者: 折原 一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/11/25
  • メディア: Kindle